IBDの治療にはいくらかかる?

  • ・ 「高額療養費制度」や「医療費控除」などの支援制度やサービスを活用して医療費の負担を軽減しよう

治療を受けるとき、どのような制度が利用できるの?

IBD(炎症性腸疾患)は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの総称です。潰瘍性大腸炎とクローン病は原因不明であり、経過が長期にわたるため、治療をしながら学び働き、生活することになります。また、症状が悪化すると日常生活に支障をきたし、会社や学校を休む場合も少なくないうえに、医療費の負担を感じる患者さんも多いようです。今回は、医療費を軽減する公的支援制度について、ご紹介します。

どんな公的支援制度が受けられるの?

(図)IBDの治療段階と利用できる公的支援制度

1 特定医療費助成制度

2014年に「難病の患者に対する医療等に関する法律」が制定され、2015年1月より特定医療費助成制度が開始されました。2018年4月現在、331疾病が医療費助成の対象になっており、潰瘍性大腸炎、クローン病は対象です。「重症度分類等」に照らして、病状の程度が一定程度以上の場合、医療費助成(特定医療費)の対象になります。医療費助成の自己負担上限額(月額)は所得に応じて定められています(図)。

(図)特定医療費助成における自己負担上限額

Aさん(30歳代の女性)は40歳代のビジネスマンの夫と共働きであり、年収の階層区分は「一般所得Ⅱ」に該当します。ただし、月ごとの医療費総額が15,000円を超える月が年間6回以上に該当しないため自己負担上限額の階層区分は「一般」となり、Aさんの自己負担上限額(月額)は20,000円となります。

本制度に関するお問い合わせ先
・難病情報センターホームページ(http://www.nanbyou.or.jp/entry/5460
・病院の医療ソーシャルワーカー

2 高額療養費制度

患者さんが病院や薬局の窓口で支払う額は、かかった医療費の1~3割を自己負担額として支払う仕組みになっています。高額療養費制度は、病院や薬局の窓口で支払う額が高額になって自己負担限度額(上限額)を超えた場合に、超えた金額を払い戻してくれる制度です。上限額は、年齢や所得によって異なります。69歳以下の方の上限額の表をお示しします。

(表)69歳以下の方の自己負担限度額(上限額)

Aさんと夫との年収が区分ウに該当する場合、Aさんの自己負担限度額は、
80,100円+(総医療費(10割)-267,000円)×1%
で計算されます。
Aさんは初回投与の日に、窓口で支払いましたが、上限額を超えていたため高額療養費制度が適用され、払い戻されました。結局、負担額は約8万円でした。2回目、3回目も同様でした。

高額療養費制度には「世帯合算」「多数回該当」という仕組みがあります

1人では上限額に達しない場合でも、69歳以下の方で同じ医療保険に加入している家族間(同一世帯)で同じ月に21,000円以上医療費の窓口支払い(自己負担額)が2 件以上ある場合は、自己負担額を合算した金額が世帯ごとの上限額を超えると、高額療養費の申請ができます(70歳以上は21,000円に満たなくても世帯間で自己負担額を合算できます)。これを「世帯合算」と呼びます。ただし、住民票上の同一世帯であっても、医療保険が別である家族の自己負担額は合算されません。

また、直近1年以内に、高額療養費給付に該当する回数月が3回以上ある場合、4回目以降は、自己負担額がさらに引き下げられます。これを「多数回該当」と呼びます。

Tさん(40歳代男性)の場合は、4回目以降は「多数回該当」が適用され自己負担額は44,400円でした(表)。

(表)多数回該当適用による自己負担上限額

本制度に関するお問い合わせ先
・ご加入の公的医療保険(保険者)の窓口
どの医療保険に加入しているかで異なります。お持ちの保険証で、保険者の名前をご確認ください。「〇〇健康保険組合」など、保険者名が記載されています。
・病院の医療ソーシャルワーカー

4 医療費控除

確定申告の時期(2月中旬~3月中旬)に税務署に確定申告書を提出することで、1年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費が一定額を超えるときは所得控除を受けることができます。診療費や薬剤費だけでなく、通院のための交通費なども含めて控除の対象とすることができます。申告を忘れてしまっても、過去5年以内であれば、さかのぼって申告することができます。なお、申告時に病院・医院で受け取った領収書・レシートの提出は不要ですが、5年間保管しておかなければなりません(税務署から求められたときは提出・提示しなければならない)ので、必ず領収書・レシートを受け取り、保管しておきましょう。

なお、医療費控除の金額は次の計算式より算出される金額(最高200万円)です。
(実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補填される金額※1)-10万円※2

※1:生命保険契約などで支給される入院給付金や、健康保険などで支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金など
※2:総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の額

5 セルフメディケ―ション税制

2017年から新しく創設された医療費控除の特例制度です。これは、スイッチOTC医薬品を購入して、ご自身でケアをした分の医療費を控除(実際に支払った額から1万2千円を差し引いた額について最高8万8.000円の所得控除を受けることができるもの)する制度です。ただし、医療費控除とセルフメディケーション税制の併用はできませんので注意が必要です。

本制度に関するお問い合わせ先
・お住まいの地域の税務署
・国税庁ホームページ(http://www.nta.go.jp/)

6 傷病手当金

会社員など被用者として働いていた場合、もし症状が悪化して会社を休職せざるを得なくなったときは、所得保障として、健康保険法で規定されている「傷病手当金」を活用することができます。「傷病手当金」は、業務外の事由による①療養のため、②労務不能で報酬が受けられないとき、③連続して3日間以上休んでいるときに、4日目の休みから最長で1年6ヵ月間、1日につき、給与(継続した12ヵ月間の各月の報酬月額の平均を30日で割った額)の約3分の2が健康保険組合などから支給されます。ただし、自営業などで国民健康保険に加入中の場合、傷病手当金が支給される制度はありません。
申請の手続きは、申請書に医師の診断と事業主からの事業所の出勤状況を記載し、ご加入の健康保険組合に郵送します。約1ヵ月後にご指定口座に振り込まれます。なお、対象となる休職期間などが各企業によって設けられている場合がありますので、勤務先の就業規則を確認してください。

本制度に関するお問い合わせ先
・ご加入の公的医療保険(保険者)の窓口
・全国健康保険協会ホームページ(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/

7 障害年金

「障害年金」は、病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる公的な年金制度の1つです。注意点として、障害年金はすぐに請求できるわけではない点が挙げられます。原則として、初めて医師にかかった日(初診日)から1年6ヵ月後の障害認定日に「障害認定基準」で定めた障害状態にあるときに、請求し、保険料の支払いなど、一定の条件をクリアすれば、支給されます。⑥でご紹介した傷病手当金の支給期間は1年6ヵ月です。そこで例えば、傷病手当金を1年6ヵ月受給後も治癒しない場合などに、障害年金を請求するなど、傷病手当金と障害年金をリンクさせて手続きを進めるのも一手です。

本制度に関するお問い合わせ先
・全国の年金事務所、街角の年金相談センター

8 障害認定日の特例

障害認定日は、原則として、「初診日から1年6ヵ月経過日またはそれまでに治った日(症状固定日)のいずれか早い方」ですが、IBDの病状によっては永久的な人工肛門を造設することがあり、この場合、障害認定日の特例が適用されます。人工肛門を造設した場合は、「造設日または手術日から起算して6ヵ月経過した日」が障害認定日となります。障害認定日が前倒しになる可能性もあるため、通常よりも早く障害年金が支給される可能性があります。

本制度に関するお問い合わせ先
・最寄りの年金事務所、街角の年金相談センター

9 身体障害者手帳

「身体障害者手帳」とは身体障害者が各種の福祉サービスを受けるために必要な手帳です。交付を希望する方は、医師の診断書・意見書を添えて、居住地の都道府県知事、指定都市市長または中核市市長に申請します。手帳の等級は1級~6級です。手帳のしおりには、受けられる障害福祉サービス等が記載されています。有料道路、鉄道運賃の割引や税金の控除・減免のほかに、医療費の助成もあります。

本制度に関するお問い合わせ先
・市区町村の障害福祉担当窓口、福祉事務所

10 重度心身障害者医療費助成制度

「重度心身障害者医療費助成制度」は、都道府県や市区町村が実施しているもので、医療費の助成を行う制度です。お住まいの都道府県、市区町村によって、対象となる障害の程度や、助成の内容も異なっていますが、対象者は国民年金の障害等級1級、身体障害者手帳1~3級をお持ちの方などで、助成内容は医療費の自己負担分を全額助成する地方公共団体が、多いようです。手帳のしおりには、受けられる制度が記載されています。有料道路、鉄道運賃の割引や税金の免除もあります。

本制度に関するお問い合わせ先
・市区町村の障害福祉担当窓口、福祉事務所

11 障害者総合支援法

障害者総合支援法は、障害者自立支援法に代わって作られた法律(2013年4月1日施行)です。障害者や難病の患者さんの日常生活や社会生活の総合的支援が目的であり、潰瘍性大腸炎、クローン病は「障害者総合支援法」で家事援助や自立訓練などの支援を受けることができます。

本制度に関するお問い合わせ先
・市区町村の障害福祉担当窓口、福祉事務所
・病院の医療ソーシャルワーカー

12 介護保険制度

「介護保険制度」は、介護が必要になった高齢者を支える制度です。65歳以上(第1号被保険者)の場合、介護を必要とする原因は問われませんが、40~64歳(第2号被保険者)の場合、「特定疾病(16種類)」の患者さんのみ、介護が必要になったときに、介護保険が利用できます。潰瘍性大腸炎、クローン病はこの特定疾病の指定を受けていません。万一、65歳以上で要介護状態になった場合には利用できます。

本制度に関するお問い合わせ先
・市区町村の介護保険担当窓口
・地域包括支援センター

黒田 尚子 先生
黒田 尚子 先生
ファイナンシャル・プランナー(FP)
98年にFPとして独立後、個人に対するコンサルティング業務のかたわら、雑誌への執筆、講演活動などを行っている。乳がん体験者コーディネーター。
黒田尚子FPオフィス公式HP:www.naoko-kuroda.com