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寛解とは? (2)関節や骨の破壊を抑え、良い状態を長く続ける

2023/02/15?Knowledge

タイトル
寛解とは? (2)関節や骨の破壊を抑え、良い状態を長く続ける
検証状況
Work In Progress
URL 名
RA-doctor3-3
概要
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内容
  • 症状が治まっても関節の炎症は続いていることも。病状が安定していても定期的に通院し、継続して診療を受けましょう
  • 体が自由に動き、日常生活に支障がない状態を維持することが、治療目標の一つ
  • 適切な時期に、適切な治療により症状が改善し、関節破壊の進行が抑制されれば身体機能障害の改善も期待できます

将来的な骨破壊を防ぐため、今ある症状を抑えることが大切

痛みや腫れ、動かしにくさなどの関節リウマチによる関節症状は、関節の滑膜という部分に炎症が生じることで起こります(図1)1)。滑膜の炎症が治まらず長く続くと、滑膜だけでなく軟骨や骨にまで影響が出始めて、いずれは関節が破壊され、変形していきます1)
関節の破壊が止まっている状態を「構造的寛解」といいます1)。残念ながら、一度破壊されてしまった関節を元の良い状態に戻すことはできません2)。しかし、適切な治療を行うことで滑膜の炎症を抑えることはできます。将来的な骨破壊の進行を止めるには、構造的寛解の達成が重要で、そのためにまずは現在の症状を抑えることが大切です。

図1 正常な関節と関節リウマチの関節

正常な関節と関節リウマチの関節

久保俊一. 知っておくべき!整形外科医の関節リウマチ診療ABC, 文光堂, 2016 より作成

ただし、症状がなくなっても滑膜の炎症は続いている場合があり、X線検査や関節超音波検査(関節エコー)などの画像検査で骨や関節の状態を確認する必要があります。症状がなくても定期的に通院し、検査を受けるようにしましょう。自覚症状がなくても上記検査で炎症がみられた患者さんに話を聞くと、「確かに痛む日はありましたが、翌日には治まったので気にしていませんでした」とおっしゃることもあります。医師が診察できるのは診察日だけで、他の日の様子はわかりません。「今日は痛みはありません」などピンポイントでなく、前回の診察から当日までの様子を時間軸で伝えることが大切です。「すぐ治まったから」「大したことないから」などと自己判断せず、気になる症状は必ず医師に伝えてください。日頃から体調に留意して、変化に気づいたら、いつどのような症状があったのかメモを取っておくと良いと思います。

症状をなくし関節や骨の破壊を抑えることで、不自由のない生活を

関節に腫れや痛みがあると体を動かしにくくなり、発症前は簡単にできていた日常動作が難しくなることがあります。このような体の動きの制限がなく日常生活を支障なく送ることはとても重要です。これを「機能的寛解」といい、これを達成することも関節リウマチの治療目標の一つです。
体の動きが制限されている状態を身体機能障害といいますが、この程度を知るために広く用いられているのが「HAQ(ハック)」という指標です(図2)3)。HAQでは「食事」「歩行」など8つの項目について、いくつかの動作の困難さを0~3点で表し、各項目で最も高かった点の平均をHAQスコアとします2)

私は診察時に、いつも患者さんに「日常生活で何か困っていることはありませんか」と質問していますが、「全然困っていません」と答える方は意外と多いです。しかし、HAQにある質問を投げかけてみると、「そう言われれば、そういうこともあります」と、初めてご自分が困っていることに気づく方もおられます。診察日の前など、定期的にHAQの質問項目とご自分の生活状況を照らし合わせてみることで、症状の変化に気づきやすくなり、医師との会話の糸口としても活用できると思います。

図2 HAQ質問票

HAQ質問票

Matsuda Y, et al.: Arthritis Rheum. 2003; 49(6): 784より作成

「病気だから仕方がない」と諦めず、医師に相談を

検査の結果、病状は落ち着いていないと判断された場合は、治療の強化が提案されます。「症状がなければ日常生活には困らないから今のままでいい」、「関節リウマチなのだから、多少体が動かしづらいのは我慢しよう」と思う人もいるかもしれません。しかし、「痛みを和らげること」が目標だった時代は終わり、現在は「関節の滑膜の炎症を消失させて、関節の変形や骨の破壊の進行を防ぎ、良い状態を長く維持していく」という長期的な目標を目指せる時代になっています。「病気なのだから仕方がない」と諦めることはありません。私が重視する治療のゴールは、発症前の生活を全て取り戻すことです。適切な治療により症状が改善し、関節破壊の進行が抑制されれば身体機能障害も改善します。このように、症状の消失を目指すだけでなく、骨と関節の破壊を防ぎ、日常生活を支障なく過ごすことがさらに大切な治療ゴールであることを理解して、治療へ前向きに取り組んでいただきたいと思います。

1)神崎初美 他. 最新知識と事例がいっぱい リウマチケア入門 -リウマチ治療はここまで変わった!, メディカ出版, 2017

2)久保俊一. 知っておくべき!整形外科医の関節リウマチ診療ABC, 文光堂, 2016

3)Matsuda Y, et al.: Arthritis Rheum. 2003; 49(6): 784

宮本 俊明 先生

宮本 俊明 先生

社会福祉法人 聖隷福祉事業団 総合病院聖隷浜松病院
リウマチセンター長 膠原病リウマチ内科部長
1998年浜松医科大学卒業後、同大学附属病院に勤務。1999年、聖隷浜松病院に着任。2008年より現職。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本リウマチ財団登録医、日本リウマチ学会専門医・指導医。
(2022年10月現在)