院内感染リスクを低減しつつ治療を継続するためにオンライン診療の活用も検討可能に

第3回 「アフターコロナ」のオンライン診療を考える

実践編:宮田俊男先生インタビュー

サマリー

・オンライン診療の規制緩和は新型コロナウイルス感染症の収束までの特例措置
・規制緩和を機にオンライン診療の適切な利用が望まれる
・オンライン診療には限界があることを理解し、症状を医師に伝える言語化が必要

在宅のまま診療から薬の処方までをオンラインで完結

ビデオ通話を用いたオンライン診療は以前から行われていましたが、保険診療の対象となる疾患が限定されていること1)、特定の疾患を除いて初診時は原則として対面診療を行うことなどの制約があり2)、これまでオンライン診療を実施する医療機関は少ないのが実情でした。
しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、初診での受診が可能になるなどオンライン診療の規制が緩和されました3)。さらにオンラインでの服薬指導も認められ、薬局から自宅に薬を配送してもらうことも可能です3)。今回の規制緩和は新型コロナウイルス感染症が収束するまでの「時限的・特例的な措置」ではあります3)
個人的には新型コロナウイルス感染症による特例措置期間中の利用状況を踏まえて、今後のオンライン診療の運用ルールなどが改めて検討されるのではないかと考えています。例えば、規制が緩和されたことで不適正使用が疑われるような薬剤処方など不適切な事例が頻発すれば、オンライン診療を制限する動きになりかねないでしょう。アフターコロナのオンライン診療を考えると、規制が緩和されているこの時期に医療者と患者さんが共にオンライン診療を適切に使っていくことが重要だと思います。

自分の症状を言語化して、医師に伝えることが大切

オンライン診療を適切に使っていくためには、オンライン診療に限界があることを理解しておくことが大切です。例えば、オンライン診療では聴診や触診、血液検査やレントゲン検査ができないなど、対面診療と比べて得られる医療情報が限定されます。そのため、医師は現在の症状だけでなく、過去の病歴やアレルギーの有無の確認は当然のこととして、どのような経過で今の状態に至っているのかなどの医療情報を、詳細かつ慎重に聞き取っていく必要があり、どうしても診察時間が長くなってしまいます。効率よく診療を進めるために、事前にご自身の症状や医療情報を整理しておきましょう。血液検査のデータの印刷物(普段から担当医にもらっておくと良いでしょう)やCTなどの画像所見(これも担当医に希望すればいただける場合が多いと思います)があれば、医師が基礎疾患の状態を把握するのに役立ちます。
私はオンライン診療を始めて、改めて患者さんがご自分の症状を言語化して医師に伝えることは意外と難しいものだと感じています。なかには「こんなことを言ってもいいのかな」などと医師に遠慮してしまう方もおられるかもしれませんが、言葉を選ばず率直にお話しください。ご高齢の方であればご家族や、ケアマネージャーさんなどに同席してもらうのも良い方法だと思います。一方でオンライン診療の場合、ご自宅にいることでリラックスできるのか、逆に対面の診察室で話しにくいことでも伝えやすくなったりするケースもみられ、オンライン診療が対面診療よりも良い場合もあると思います。

技術の進歩により、オンライン診療が対面診療に近づく可能性も

もともとオンライン診療(遠隔診療)は、対面診療の補完として、離島やへき地の患者さんなど限定的に行われることが想定されていました1)。しかし、情報通信技術のさらなる進展によって、将来オンライン診療が対面診療に近づく可能性はあると思います。例えば、スマートフォンの画面では皮膚の微妙な色の違いまでは確認しづらく、当院では皮膚疾患に対するオンライン診療は画質の良いモニターを使ったり、写真データをメールでいただいたり、慎重に進めています。ですが、5G(第5世代移動通信システム)や8Kの超高精細映像の時代になれば、問題なく診療できる可能性があります。また、現在、オンライン診療では聴診ができませんが、将来的にはセンサーやモニター技術を活用し、遠隔からリアルタイムで脈拍測定や心音の聴取などができるようになれば、オンライン診療の質の向上も期待できます(図1)4)。すでに海外では実用化されているデバイスも出てきています。
新型コロナウイルス感染症の影響による規制緩和をきっかけに、オンライン診療が利用しやすい環境が整備されました。新型コロナウイルス感染症の収束後には、情報通信技術の進化や人工知能(AI)の導入に伴って、オンライン診療だけでなく、医療の在り方そのものが大きく変わっていくのではないでしょうか。対面診療とオンライン診療を組み合わせて、医療の質と効率を両立できるような時代が到来すると考えられます。

図1)オンライン診療の位置づけ

図1 オンライン診療の流れ (イメージ図)

厚生労働省、総務省、経済産業省 未来投資会議構造改革徹底推進会合「健康・医療・介護」会合第2回.
(1)遠隔診療の推進 平成29年11月15日(2020年5月12日アクセス)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/health/dai2/siryou2.pdfより一部を抜粋

宮田 俊男 先生 宮田 俊男 先生
 
医療法人DEN理事長、みいクリニック院長
大阪大学大学院医学系研究科招聘教授
国立がん研究センター企画戦略アドバイザー
 
早稲田大学理工学部で人工心臓に出会い、自ら患者さんに新しい医療を生み出すべく1999年、大阪大学医学部に3年次編入。2003年、大阪大学第一外科に入局。現場で新しい医療を生み出すためには制度改革が必要と痛感し、2009年、厚生労働省に入省し、多くの医療改革に関わる。大阪大学産学共創本部特任教授、京都大学産官学連携本部客員教授、国立がん研究センター政策室長、日本医療政策機構理事を歴任し、日本健康会議実行委員、日本臨床疫学学会理事も務める。今も現役の外科医でもありながら、かかりつけ医を推進するため、みいクリニック院長として地域医療を守るとともに、企業の健康経営や、生活習慣病の重症化予防、在宅医療にも取り組んでいる。また数万人がダウンロードしているセルフケアアプリ「健こんぱす」の考案者としても知られている。
 
現在の趣味は、釣りと畑と料理