院内感染リスクを低減しつつ治療を継続するためにオンライン診療の活用も検討可能に

第1回 オンライン診療でできること、できないこと

実践編:宮田俊男先生インタビュー

サマリー

・感染を防ぐための時限的な措置として、初診からのオンライン診療が可能に
・処方日数の上限が7日になる場合や、オンライン診療では処方できない薬もある

オンライン診療の規制緩和により、在宅での診察と薬の受け取りが可能に

「ビデオ通話を用いたオンライン診療は以前から行われていましたが、保険診療の対象となる疾患が限定されており1)、また、特定の疾患を除いて初診時は原則として対面診療を行うことなどの制約があったため2)、実施している医療機関は少ない状況でした。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、希望する患者さんが医療機関に行かずに診察を受けることができるオンライン診療の対象が拡大しています。オンライン診療では、離れた場所にいる医師と患者をインターネットでつなぎ、スマートフォンやパソコンのビデオ通話機能を使ってリアルタイムで診療を行います1)。オンライン診療は、以前は「遠隔診療」と呼ばれ、医療機関がない離島やへき地など遠隔診療でなければ必要な診療を行うことが困難な場合にのみ認められていました2)。しかし、2015年に厚生労働省が「離島・へき地に限らない」とする通達を出したことで事実上解禁となり、保険診療でも電話再診として実施されてきましたが、2018年の診療報酬改定で「オンライン診療」として明確に保険適用となりました2)。当院でも高血圧や高脂血症など生活習慣病で安定しており、仕事などが忙しく通院が難しい患者さんを中心にオンライン診療を実施してきました。

オンライン診療は、禁煙外来や緊急避妊薬の処方を除き、初診については対面での診療が原則とされているなどの制約があり1)、2019年に行われた厚生労働省の調査によると、オンライン診療を実施している医療機関は病院が24.3%、診療所は16.1%にとどまっていました3)。しかし、新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点からオンライン診療へのニーズが高まり、厚生労働省は2020年4月10日付で過去に受診歴がない人を含め、初診時からのオンライン診療を認める通達を出し4)、13日から対応が始まっています。薬に関しても薬局薬剤師との対面の規制についても薬機法が緩和され、医療機関から薬局へファックスなどで処方せんを送り、薬剤師によるオンラインでの服薬指導の後に薬局から患者さんのご自宅へ薬を配送できるようになりました(図14,5)

図1)外来の患者さんのオンライン診療からオンライン服薬指導までのイメージ

図1 外来の患者さんのオンライン診療からオンライン服薬指導までのイメージ

※薬によっては薬局での服薬指導が必要となる場合があります。1
※院内処方の場合は医療機関から薬が配送されます。

厚生労働省保険局医療課. 令和2年度診療報酬改定の概要(調剤)令和2年3月5日版(2020年5月11日アクセス)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000608537.pdf より一部を抜粋

初診の場合は基礎疾患の情報を医師にきちんと伝えることが大切

今回の規制緩和は、あくまでも新型コロナウイルス感染症が収束するまでの「時限的・特例的な措置」として認められています4)。しかし、在宅で診察から服薬まで一貫して受けることができれば、定期的な受診が必要な患者さんも通院のための交通機関や院内での感染リスクが避けられ、安心できるのではないでしょうか。受診歴のない医療機関でも医師が患者さんの医療情報(患者さんの既往歴などの基本情報、処方歴、主な検査結果、画像所見等)を把握でき、適切に薬剤を処方できると判断した場合はオンライン診療のみで薬の処方が可能です4)。オンライン診療に対応している医療機関は、厚労省のHP(※)に掲載されています。

※ オンライン診療に対応している医療機関リスト(厚労省のHP)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00014.html

また通常時は、基礎疾患のため既にオンライン診療を受けている患者さんも基礎疾患とは別の症状で受診する場合は初診扱いとなり、対面での診察が必要となりますが1)、こちらも規制が緩和され、特別措置期間はオンライン診療のみで薬の処方が可能です4)。まずはかかりつけの医療機関がオンライン診療に対応しているか確認するのが良いと思われます。

ただし、オンライン診療で医師が患者さんの基礎疾患の情報を把握できない場合は、薬剤の処方日数は7日間が上限となります4)。かかりつけでない医療機関でオンライン診療を受ける際は、担当の医師にこれまでの病状や処方された薬、経過などをきちんと伝えることが大切です。お薬手帳や血液検査結果の印刷物や写メなどを事前に準備しておくと良いでしょう。また、抗がん剤や向精神薬など、オンライン診療では処方できない薬もあります4)。使用している薬がオンライン診療でも処方可能かどうか、医師に確認することも重要です。

宮田 俊男 先生 宮田 俊男 先生
 
医療法人DEN理事長、みいクリニック院長
大阪大学大学院医学系研究科招聘教授
国立がん研究センター企画戦略アドバイザー
 
早稲田大学理工学部で人工心臓に出会い、自ら患者さんに新しい医療を生み出すべく1999年、大阪大学医学部に3年次編入。2003年、大阪大学第一外科に入局。現場で新しい医療を生み出すためには制度改革が必要と痛感し、2009年、厚生労働省に入省し、多くの医療改革に関わる。大阪大学産学共創本部特任教授、京都大学産官学連携本部客員教授、国立がん研究センター政策室長、日本医療政策機構理事を歴任し、日本健康会議実行委員、日本臨床疫学学会理事も務める。今も現役の外科医でもありながら、かかりつけ医を推進するため、みいクリニック院長として地域医療を守るとともに、企業の健康経営や、生活習慣病の重症化予防、在宅医療にも取り組んでいる。また数万人がダウンロードしているセルフケアアプリ「健こんぱす」の考案者としても知られている。
 
現在の趣味は、釣りと畑と料理